2015年5月27日水曜日

出来高報酬契約はパフォーマンスを向上させる?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、5月のテーマは「スポーツ」です。子供の頃、野球をやっていた私は、ほかの多くの子どもたちと同じように、プロ野球選手にあこがれた子どもの一人でした。最近は地上波ではめったにプロ野球中継は放送されなくなりましたが、今でも好きなチームの結果はかかさずチェックしています。
 また、中学生くらいになってくると、プロ野球選手へのあこがれは、純粋に野球のうまさ、かっこよさに対してだけでなく、その年俸の高さに対しても向くようになっていきました(笑)。当時、ロッテ、中日、巨人で活躍した落合博満選手の年俸が、日本人選手として初めて億を超え、毎年すごい勢いで増えていったことにとても興奮したことを鮮明に覚えています。

 ところで、プロ野球選手の契約更改は、上にあげた年俸の高さ、球団間格差、有名選手への複数年契約の提示など、毎年様々に話題となりますが、その中に出来高報酬というものがあります。これは、シーズン前に決めた年俸に、その年の個人成績(出場試合数、打率、打点、個人タイトル等)に応じて、報酬を上乗せする契約のことです。これは定額の報酬契約以上に、選手のやる気と努力を引き出す、すなわち、インセンティブを高めることを狙いとするもので、経済学では、“インセンティブ契約”と呼ばれます。

 このインセンティブ契約、出来高報酬契約は、プロ野球界のみでなく、一般の企業でもよく見られます。営業職の歩合制がその代表例ですが、営業職に限らず、ボーナスが会社の業績に応じて変わることも一種の出来高報酬といえます。経営者による自社株保有も、経営者の意識を株価増大に向けさせるためのインセンティブ契約と捉えられます。

 ただし、一概にインセンティブ契約といっても、それが契約者のやる気や行動を適正に改善するかは、状況によります。大事なのは“報酬を連動させる成果が、契約者から引き出したい努力と密接に関連していること”です。

例えば、大きな貿易会社の事務職員に、会社のためにまじめに働いてもらおうと、「会社の当期純利益と連動する賃金契約」を提示したとします。この時、事務職員は自分自身のためにも、会社の利益の増大を望むようにはなります。しかし、貿易会社の当期純利益は、事務職員個人の努力以上に、(個人のコントロール範疇を超える)為替相場の変動の影響を大きく受けてしまうと考えられます。そのため、為替相場の変動によって、当期純利益が変動し、自身の賃金が変動したとき、きっとその職員は、自己責任と納得せずに、理不尽なリスクにさらされていると感じてしまうでしょう。結果、このようなインセンティブ契約では職員の適切な努力を引き起こすことはできなくなってしまいます。

一般的に、歩合制などのインセンティブ契約は、実力主義的な発想をもつ人に好まれます。そして、実力主義的な発想を持つ人の中には、「自身の実力に自信がある人」、すなわち、「自分は努力をすれば、結果を多く出すことが出来る、と思っている人」が多くいると思われます。したがって、インセンティブ契約の提示には、契約者の努力を引き出すことに加えて、「実力に自信のある人」を識別する効果も期待できます。ただし、「実力に自信がある人」が必ずしも「実際に実力がある人」とは限らないという点には注意が必要かもしれません☆

個人的には、インセンティブ契約が、自信過剰な人から、成果をともなわないまとはずれな努力を引き出してしまう場合、それは昨今話題の「やりがい搾取」ならぬ「自信搾取」とでもいうべき非効率な状況なのでは、と考えています。

こう考えると、実力も自信もなくてはやっていけないプロ野球の世界で、出来高報酬が多く利用されると同時に、その賛否が分かれるのも、うなずけるところです。はたして、出来高報酬の利用に積極的な球団は、選手たちの努力を引出し、チームの勝利という結果をもぎ取ることに成功しているのか、また、出来高報酬を好む選手とそうでない選手、個性やプレースタイル、パフォーマンスにどのような違いがあるのか、こんなことを考えながら観戦すると、また違ったプロ野球の楽しみを味わえるかもしれません。


投稿者 石川雅也