2016年5月26日木曜日

【学問のミカタ】経済と言えばお金!!………なの?



全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、2016年度5月を担当する石川です。今月のテーマは「お金」です。いきなりですが、

「あなたにとってお金(貨幣)とは何ですか?」

こう訊かれたら、あなたはどう答えますか?
 
 「必要なもの」
 「大切なもの」
 「ほしいもの」

このように答える人が多いでしょうか。

 「仕事の目的」
「仕事に対する対価」
「誠意や愛情の一つの形」 

こんな風に答える人もいるかもしれません。あるいは、

 「欲望と争いの根源」
 「ないと苦労するもの」
 「ありすぎてもかえって苦労するもの」 

こう感じている人もいるかもしれません。
 

様々な感じ方があると思いますが、少なくともお金に無関心という人は多くはいないのではないでしょうか。

 そして、当然ですが、経済、経済学にとって、お金は切っても切り離せない存在です。「経済と言えばお金」、「お金と言えば経済」、連想ゲームでも、こうつなぐことを不自然に感じる人は少ないでしょう。
ただ、実は、必ずしも「経済=お金」というわけではありません。「お金」にしろ「経済」にしろ、誰もが日々見聞きし、接しているもの、概念であるにもかかわらず、あまりに身近すぎて、「それが何を正確に指し示すのか」について、立ち止まって考えることはそうそうないように感じます。

 
 そこで、ここではその点について少しだけ述べたいと思います。まず「経済」という言葉を辞書で引くと、以下のように出てきます。

 「経済:人間の生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動。また、それらを通じて形成される社会関係。(デジタル大辞泉より)」
 

 辞書らしい、固い文章ですが、わかりやすい表現でまとめると以下の2点でしょうか。
 ・経済とは、基本的に「人の活動」を示す概念であり、その「人の活動」が織りなす社会を指す言葉でもある。
 ・ここでいう「人の活動」とは、何らかの形で「財やサービスに関わる活動全て」である。

つまり、「経済」にとっての最重要キーワードは「人の活動」、「財・サービス」であり、必ずしも「お金」ではないのです。例えば、無人島での自給自足生活は、お金とは無縁の生活です。しかし、無人島でも、食べるもの、着るもの、住むところは絶対に必要です。これらはれっきとした財・サービスであり、したがって、無人島での自給自足生活も立派な経済活動ということになります。

 

つまり、経済とはお金以上に広い概念なんです。実際、経済学では、お金の存在を明示的に仮定しない理論モデルが多く存在します。「経済=お金」と考えていた学生時代の私は、このことを学んだ時、とても大きな衝撃を受けました。

 では、「経済」における「お金」の位置づけはどうなるのでしょうか。そこを説明するためには、「人と財・サービスとの関わり方、すなわち経済活動」には、どんなものがあるかを整理する必要があります。経済学では、経済活動を最も大まかには、以下の3つに分類します。
 ①財・サービスをつくる(生産)
 ②財・サービスをつかう(消費)
 ③財・サービスを人とこうかんする(取引)
 

この3つの活動はどれもとても大切です。人は財・サービスを消費しなければ生きていけないし、そのためには生産する必要があります。といっても、自分に必要なものを自分だけで生産しようとしても限界があります。この時、他の人との取引が可能であるからこそ、人々は自身の得意なものの生産に特化し、その成果をお互いに交換し合うことで豊かに生きることが出来ます。

そして、「お金」は3つの経済活動のうち、「取引」においては重要な役割を果たすものに位置付けられます。というのも、お金とは基本的に「売買」すなわち、取引に用いられるものであるからです。取引は、お金を介さずに「物々交換」ですることが可能ですが、容易に想像できるようにお金を介した売買と比べ、非常に手間がかかります。すなわち、お金とは、取引活動を円滑化するために人類が生み出した一つの社会システムということが出来ます。
 

 私は、この「お金とは経済を支配するものではなく、あくまでその一側面である「取引」の円滑化に役割を発揮するツールに過ぎない」ということ、そして、「それにも関わらず、「経済=お金」と多くの人々が無意識に感じるということは、それだけ現代社会では「取引」という活動の重要性や影響が、極めて大きいことを示している」ということを理解することは、誰にとってもとても大事なことであると考えます。これらを考えたとき、最初の問いに対し、私なら次のように答えるでしょうか。

「便利なもの」

 自分にとって、「お金」とは何なのか?経済学を学んでみると新たな答えを発見できるかもしれません。



投稿者 石川雅也




同じテーマについて他学部の先生方も違った視点で語ってくださっています。

経営学部 「利益を増やすために考える2つの視点」http://tkubiz.blogspot.jp/2016/05/blog-post_11.html

コミュニケーション学部 「働くモチベーション」http://comtku.blogspot.jp/2016/05/blog-post.html

現代法学部 
「お金について- マイナス金利など」
http://genho-tku.blogspot.jp/2016/05/blog-post_13.html
「お金について- その2 電子マネー、仮想通貨など」http://genho-tku.blogspot.jp/2016/05/blog-post_26.html

全学共通教育センター 「金でも取れるかね?」http://tkucenter.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html