2015年8月27日木曜日

経済人なら夏休みの宿題は貯めない?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、8月のテーマは「宿題」です。8月も残りわずかですね。8月前半は猛暑日が長く続く、例年に無いほどの非常に暑い夏でしたが、ここへ来て急に涼しくなりました。少し夏バテ気味だったまだ9か月の娘は随分と元気に動き回るようになりましたが、気温差に私の方が体調を崩し気味です。でも、この時期は宿題を貯めてしまい、体調を崩している場合ではない人ももしかしたらいるのではないでしょうか。

 かくいう私も、小学生時代は、御多分に漏れず、夏休みの宿題はぎりぎりまで貯めていたクチです。皆さんはどんなタイプでしたか?
 ①夏休みの宿題は、最初に一気にやってしまう。
 ②夏休みの宿題は、毎日コツコツ計画的に進める。
 ③夏休みの宿題は、最後に一気にやってしまう。
 ④夏休みの宿題は、結局やらずにごまかしとおす。

 ④は問題外として、やはり私同様、③のタイプという人が結構いるのではないでしょうか。また、③のタイプの中でも、夏休みが始まる前の時点で、「夏休み前半は存分に楽しんで、後半は宿題を頑張ろう」と意図的にそうする人と、夏休みが始まる前の時点では、「できるだけ早く宿題は終わらせてしまおう」と決意していたにもかかわらず、気づくとため込んだまま8月が終わろうとしてしまう人では、大きく違う気がします。私も、夏休みのはじめには、夏休み全期間を通じた余裕ある宿題遂行計画を立て、立てたにもかかわらず、結局予定通りやらず、また途中で残りの期間での宿題遂行計画を立て直し、にもかかわらず、やっぱりやらず、結局、追い込まれた最後に泣きそうになりながらやった、という苦い思い出があります(苦笑)。

 この、長期を見通した時の今取るべき最適な行動がわかっているのにもかかわらず、実際にはそのような行動をとることが出来ず、長期ではいずれ問題を引き起こすが、短期的には非常に高い満足度をもたらしてくれるような行動をとってしまうことを、「時間非(不)整合」といいます。宿題だけでなく、ダイエットの失敗、虫歯の放置、老後の貯蓄をためられない、多重債務など日常生活の様々な場面でこのような行動は見受けられます。

 このような現象はどのように説明されるでしょうか。時間を通じて一貫的な価値観を持ち、その価値観に基づいて合理的に行動できるような人間を想定して組み上げられる伝統的な経済学での説明は難しいと思われます。一つの説明は、意志の弱さの結果、非合理的に行動してしまう、というものです。この場合、解決策は意志の強さを鍛えるというものになります。

 もう一つの説明は、人には短期局面を考えるときと、長期局面を考えるとき、時間の違いについて異なった価値観に基づいて意思決定する性向がある、という考え方です。もう少し丁寧に説明すると、1か月、1年、10年という長いスパンの行動を考えるとき、ある程度近い将来のことと遠い将来のことをどちらも重要だと考える傾向がある(経済学的に言うと時間選好率が低い)人でも、今日、明日の短いスパンの行動に関しては、今日のことがより重要と考える傾向がある(時間選好率が高い)ため、計画を立てるときは、長期的視野に立った計画を立てても、実際の行動は近視眼的に行動してしまう、という考えです。

 この場合、意志の強さの鍛錬という発想では、なかなか問題の解決は難しいです。というのも、上のように局面局面で価値観が異なる人にとっては、計画を立てる局面でも、実際に行動する局面でも、それぞれしっかりと自身の価値観に基づいた合理的な意思決定をしているからです。すなわち、そもそも自己矛盾した価値観をもっていて、それに忠実に行動しているからこそ自己矛盾した結果が生じてしまっているわけです。

 この場合の解決策は、計画を立てる段階で、本人の意思に左右されない強制力をもったルールまで設けてしまうことです。具体的には、老後の貯蓄を自分ではなかなか貯められずつい使ってしまうのであれば、給料天引きでの積立貯蓄に加入してしまうといったものです。また、最近はやっている、マンツーマンでトレーナーが付き、計画遂行をある程度の強制力をもってサポートしてくれるダイエット・ジムもまさに、自身の意思にゆだねず、ルールを設ける例と言えます(「結果にコミットする」という売り文句がそれを象徴しています)。

 この強制力をもったルールを設けるという方法を、夏休みの宿題に応用するとしたら、どうなるでしょう。夏休み前にしっかりと計画を立て、その計画を自ら親にも宣言し、進行状況の確認をお願いするなどというのはどうでしょうか。残念ながら、今年の宿題の解決には間に合いませんが、来年からはこうしてみるのもいいかもしれません(笑)。強い意志と強制力、どちらも賢く利用して、有意義な夏を毎年過ごしたいものです。



投稿者 石川雅也