2015年6月29日月曜日

天候と気分次第で人の経済的行動は変わる?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、6月のテーマは「梅雨」です。関東地方は今年は68日に梅雨に入りました。小学生の頃、雨だと陸上部の練習が休みになるという理由で大好きだった梅雨ですが、社会人になった今は通勤や洗濯物、苦手な湿気のことを思うとげんなりしてしまう時期です。晴れていれば気分がよく、雨が降ると少しだけ憂鬱になる。非常に単純ですが、多くの人に当てはまることではないでしょうか。

 ところで、この天気による気分の変化は、株価にまで影響を与えるのではないか、という可能性が様々な研究や分析から指摘されています。中でも、多くの国の長期間の実際のデータを用いた検証によってその可能性を指摘した有名な論文として、Hirshleifer & Shunmway (2003)があげられます。彼らは、19821997年の期間において、世界の26か国の各国の主要株式取引所がある都市における朝の晴天と、その日のその取引所の平均株価の日次収益率との間に強い正の相関関係があることを示しました。端的には「晴れている日は株価が上がりやすい」ということになります。冷夏、暖冬などの長期的な天候によって農業関係の株価が影響を受ける、というのであれば、経済学的にも理解しやすいことですが、単純なその日の天気とその日の平均的な株価変動との間に関係があるということは、なかなか合理的には説明がつかない現象であり、かなりの驚きです。

ただし、この論文だけでなく、天気と株価との関係は、その後も様々な研究がなされており、その原因が本当に天気による気分の違いなのか、実際の投資戦略として用いた場合の手数料などを考慮しても有効なほどの関係性なのか、またその関係が株式市場の参加者に認識されたのちにも残る現象なのか、など今でも多くの議論がなされています。

 でも、考えてみると、気分や感情によって、人の経済的な行動に変化が生じることは、ある意味ではごく自然なことだともいえるように思います。親からもらった一万円とアルバイトで稼いだ一万円だと、同じ一万円でも重みが違うように感じられ、その使い方もおのずと変わった、というような話は学生から良く聞こえてきます。また、衝動買いをしてしまって、あとから後悔、なんてことは誰もが何度も経験することです。お金を貯めようと何度も決意するのに毎回挫折してしまう、という人もいるかもしれません。

 では、気分や感情、さらには好みや価値観まで、日々さまざまなことをきっかけに変化し続けるのであれば、その中でどのような経済的な意思決定をすることが賢いといえるのでしょうか。ひたすら理性的に行動しようとすることでしょうか。「Let it Go~♪」と、心のままに感情に逆らわず行動することでしょうか。または、ルールや制度を作って外生的にある程度行動をコントロールしてもらうことでしょうか。はたまた、頭や体だけでなく、心を鍛えることでしょうか。

 これはなかなかに難しい問題です。皆さんならどう考えますか。雨の日には、こんな思索にふけるのも面白いかもしれません。

投稿者 石川雅也


参考文献:
D. Hirshleifer and Shumway T., “Good Day Sunshine: Stock Returns and the Weather”, The Journal of Finance, Vol. 58-3, pp. 1009-1032, 2003.

2015年5月27日水曜日

出来高報酬契約はパフォーマンスを向上させる?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、5月のテーマは「スポーツ」です。子供の頃、野球をやっていた私は、ほかの多くの子どもたちと同じように、プロ野球選手にあこがれた子どもの一人でした。最近は地上波ではめったにプロ野球中継は放送されなくなりましたが、今でも好きなチームの結果はかかさずチェックしています。
 また、中学生くらいになってくると、プロ野球選手へのあこがれは、純粋に野球のうまさ、かっこよさに対してだけでなく、その年俸の高さに対しても向くようになっていきました(笑)。当時、ロッテ、中日、巨人で活躍した落合博満選手の年俸が、日本人選手として初めて億を超え、毎年すごい勢いで増えていったことにとても興奮したことを鮮明に覚えています。

 ところで、プロ野球選手の契約更改は、上にあげた年俸の高さ、球団間格差、有名選手への複数年契約の提示など、毎年様々に話題となりますが、その中に出来高報酬というものがあります。これは、シーズン前に決めた年俸に、その年の個人成績(出場試合数、打率、打点、個人タイトル等)に応じて、報酬を上乗せする契約のことです。これは定額の報酬契約以上に、選手のやる気と努力を引き出す、すなわち、インセンティブを高めることを狙いとするもので、経済学では、“インセンティブ契約”と呼ばれます。

 このインセンティブ契約、出来高報酬契約は、プロ野球界のみでなく、一般の企業でもよく見られます。営業職の歩合制がその代表例ですが、営業職に限らず、ボーナスが会社の業績に応じて変わることも一種の出来高報酬といえます。経営者による自社株保有も、経営者の意識を株価増大に向けさせるためのインセンティブ契約と捉えられます。

 ただし、一概にインセンティブ契約といっても、それが契約者のやる気や行動を適正に改善するかは、状況によります。大事なのは“報酬を連動させる成果が、契約者から引き出したい努力と密接に関連していること”です。

例えば、大きな貿易会社の事務職員に、会社のためにまじめに働いてもらおうと、「会社の当期純利益と連動する賃金契約」を提示したとします。この時、事務職員は自分自身のためにも、会社の利益の増大を望むようにはなります。しかし、貿易会社の当期純利益は、事務職員個人の努力以上に、(個人のコントロール範疇を超える)為替相場の変動の影響を大きく受けてしまうと考えられます。そのため、為替相場の変動によって、当期純利益が変動し、自身の賃金が変動したとき、きっとその職員は、自己責任と納得せずに、理不尽なリスクにさらされていると感じてしまうでしょう。結果、このようなインセンティブ契約では職員の適切な努力を引き起こすことはできなくなってしまいます。

一般的に、歩合制などのインセンティブ契約は、実力主義的な発想をもつ人に好まれます。そして、実力主義的な発想を持つ人の中には、「自身の実力に自信がある人」、すなわち、「自分は努力をすれば、結果を多く出すことが出来る、と思っている人」が多くいると思われます。したがって、インセンティブ契約の提示には、契約者の努力を引き出すことに加えて、「実力に自信のある人」を識別する効果も期待できます。ただし、「実力に自信がある人」が必ずしも「実際に実力がある人」とは限らないという点には注意が必要かもしれません☆

個人的には、インセンティブ契約が、自信過剰な人から、成果をともなわないまとはずれな努力を引き出してしまう場合、それは昨今話題の「やりがい搾取」ならぬ「自信搾取」とでもいうべき非効率な状況なのでは、と考えています。

こう考えると、実力も自信もなくてはやっていけないプロ野球の世界で、出来高報酬が多く利用されると同時に、その賛否が分かれるのも、うなずけるところです。はたして、出来高報酬の利用に積極的な球団は、選手たちの努力を引出し、チームの勝利という結果をもぎ取ることに成功しているのか、また、出来高報酬を好む選手とそうでない選手、個性やプレースタイル、パフォーマンスにどのような違いがあるのか、こんなことを考えながら観戦すると、また違ったプロ野球の楽しみを味わえるかもしれません。


投稿者 石川雅也

2015年4月23日木曜日

学問のミカタ(4月):他人の評価は気にすべき?-ケインズの「美人投票」から考える-


 さて、全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、4月のテーマは「選挙」です。12日と26日に統一地方選挙があります。また、最近、投票年齢の引き下げも議論されています。ところで、こういった政治家選出のための選挙、投票とは直接関係ないかもしれませんが、経済学には、著名な経済学者ケインズが提示した「美人投票」という有名なたとえ話があります。

 これは、「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」を行った場合に人々はどのような行動をとるだろうか、というものです。

 少し考えるとわかるように、この時、最適な行動は、「自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票する」ことです。ケインズは金融市場での投資行動を、この「美人投票」のようなものとたとえました。

 実際の金融市場が本当にそのようなものなのか、またケインズ自身が本当にそのように行動していたのかは議論が分かれるところなのですが、それはさておき、「美人投票」から私が考えたいことは「ある行動について、自分自身による評価と他人による評価が異なるとき、どちらを優先して意思決定すべきか」という点です。

 例えば、進路を決める時、自分が満足を感じる仕事と、(多くの場合高い報酬という形で)人に評価してもらえる仕事、どちらがいいのだろう、と悩むことはないでしょうか。または、映画を見る時に、マイナーだけど自分が興味のある映画を見ようか、それとも大きな話題となった大ヒット作を見ようかと迷ったことはありませんか。
 
 「美人投票」のたとえ話は、一見、他人による評価が重要であると伝えているようにも見えます。しかし、これは「最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える」という投票だからです。すなわち、賞品獲得という自身の利益が、このケースでは他者の評価によって左右されます。

 これに対し、「投票した相手と会うことが出来る」という投票であれば、状況は一変するのではないでしょうか。この場合、会いたい人に会えるという自身の利益は、他者の評価に左右されません。そのため、俄然、自分自身による評価に基づいた意思決定が重要となります。

 つまり、大事なのは、「自分の意思決定がどこから生じる価値を求めての行動に関することか」をきちんと見極めることではないでしょうか。経済において、他者の評価で大きく変動するものと言えば、財・サービスの「価格」です。株式市場でもヤフオクでも人気商品の価格は上がり、評判の悪い商品の価格は下がります。したがって、価格に左右される行動、すなわち、売買・取引を行おうとする場合、他者の評価を考慮することは極めて重要となります。

 それに対し、純粋に財・サービスを楽しむ、すなわち、消費をしようとする場合、そこから自分自身がどれだけの満足を得られるのかが重要となります。したがって、映画であっても、自分が見て楽しむことが目的なら、自分の好みと合った映画を選ぶのが賢明であり、映画を作って儲けようという場合には、多くの人が楽しいと感じる映画を作ることが大切となるわけです。

 当たり前のことのようですが、この取引行動と消費行動の違いを意識すると、様々な場面での優柔不断がかなり解消されるかもしれません。

投稿者:石川雅也

ブログ開設について


 この度、東京経済大学経済学部としてのブログを開設することになりました。当面の担当をさせていただく石川雅也(金融経済学、マクロ経済学、インターンシップ担当)です。スタートとして、東経大の全学部のブログでのコラボ企画、「学問のミカタ」を中心に、記事をアップしていきたいと思います。

 この「学問のミカタ」という企画は、毎月、各学部共通のテーマでそれぞれ記事を書いていこうというもので、同じ素材のもと「学」による視点の違いを比較してもらおうというものです。企画タイトルの「ミカタ」には「われわれ教員は、学生にとって、ものごとのいろいろな『見方』を示す、あなたの『味方』でありたい。」との思いが込められています。

それではこれからよろしくお願いします。

投稿者:石川雅也