2017年2月16日木曜日

【学問のミカタ】経済学とルールの関係性

みなさんこんにちは。経済学部の野田です。
今月のテーマは、経済学にも深く関わる「ルール」です。できるだけ身近な例をあげつつ、経済学とルールの関係性を説明したいと思います。

出所:http://www.irasutoya.com/2016/07/blog-post_28.html

通学に電車を使っている人も多いのではないでしょうか。たとえばJRを使って、国分寺から新宿に行く場合、片道388円(IC)を支払います。388円を支払う代わりに、国分寺から新宿までの電車を利用することができます。当たり前ですよね。

それでは、なぜAさんは席に座ることができ、Bさんは立たなければならないのでしょうか。それは暗黙のうちに、私たちは「早い者勝ちのルール」に同意しているからです。読んで字のごとく、早くに電車に乗った人は優先的に座ることができます(ちなみにこの早い者勝ちルールは、河川水の利用ルールとして世界的にみられます)。

しかし、この早い者勝ちのルールは本当に正しいのでしょうか。たとえばネットオークションや魚市場でみられるように、「よりお金を出せる人を優先的に座らせるというルール」もあり得るのです。経済学からすると、「遠くから乗った人」よりも「より多くのお金を出せる人」に座らせる方が社会的に望ましいことになります。

もちろん現実はそうなっていませんね。ここが大切なポイントです。

なぜ駅に着くたびに、電車の座席を競りにかけないのかというと、競りにかける費用が別途必要になってしまうからです。これは以前お話しした取引費用の一種です。駅ごとに座席を競りにかけるという取引費用が高いので、現実は別のルール、早い者勝ちのルールが採用されたと解釈することができます。

私たちの日常生活のなかには、見えない鎖としてのルールが無数に埋め込まれています。ルールが決まらなければ社会は動きませんし、ルールの良し悪しを分析するのも経済学のテーマの一つです。

経済学とルールの関係性に興味を持ってくれれば、嬉しく思います。

2017年1月17日火曜日

【学問のミカタ】 マシュマロ・テスト


経済学部の安田です。全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、20171月のテーマは「冬」です。冬というと日本では受験を連想される方も多いのではないでしょうか。114日・15日にセンター試験が終了し、受験生の皆さんにとってはこれからが受験シーズン本番ですね。

 

さて、皆さんはマシュマロ・テストという言葉を聞いたことがあるでしょうか。マシュマロというのはあのお菓子のマシュマロです。マシュマロ・テストは、1960年代にスタンフォード大学の保育園で始められたテストで、園児がマシュマロを食べるのを我慢できるかというテストです。テストの概要は以下の通りです。

 

 
  

まず、被験者となる園児は小さな部屋に通されます。そこで実験を担当する研究者から、マシュマロ1つを今すぐに食べてもいいし、研究者が戻るまで待てれば(最大20分)マシュマロをもう一つ(合計2つ)を手に入れられる、という選択を提示されます。マシュマロ・テストの様子は非常に愛くるしいもので、インターネット上にもいくつか動画が公開されています(例えば、こちらの動画があります)。

 

多くの園児たちは研究者が戻るまで我慢できずにマシュマロを食べてしまうのですが、スタンフォード大学の研究者たちは、このマシュマロ・テストを受けた園児たちを追跡調査し、マシュマロ・テストの結果がその後の人生と非常に密接に結びついていることを発見しました。例えば、マシュマロ・テストで長く待てた園児ほど、成長してからの大学進学適性試験(SAT)の点数が高く、高い教育水準に達し、肥満指数も低いなどの結果が明らかになっています(詳しくは参考文献の『マシュマロ・テスト』をご覧下さい)。

 
 
 

では、マシュマロ・テストの結果は何を示していたのでしょうか。いろいろな解釈が可能だと思いますが、スタンフォード大学の研究者はこれを「自制心」の違いであると解釈しています。
 
 
人生ではマシュマロ・テストのように、「今」と「将来」のどちらを重視して選択をするかという葛藤がつきものですよね。「今消費するのか、将来のために貯蓄するのか」、「今お腹いっぱい食べるのか、将来の肥満リスクを考えて制限するのか」、「今勉強をせずに遊ぶのか、将来の重要な試験のために勉強するのか」など、枚挙に暇がありません。マシュマロ・テストが示していることは、そのような葛藤に直面したときに、目の前にある欲望(マシュマロ1つ)を自制できる人が、より大きな将来の果実(マシュマロ2つ)を得ているということなのだと思います。

 

 
 

「今」を重視する「せっかちな」人ほど、負債者比率、肥満比率、ギャンブル習慣者比率などが高いことは日本のデータでも確認されていますが(詳しくは参考文献の『自滅する選択』をご覧下さい)、自制心を高めたり、誘惑の乗り越る方法についても『マシュマロ・テスト』に紹介されていますので、関心のある方は読んでみて下さい。

 
 

論語に「歳(とし)寒くして、然(しか)る後に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るるを知るなり」(一年で最も寒い冬になって初めて、松や檜などの常緑樹がまだ葉を残していることがわかる)という言葉があります。

 

「困難に直面した時にはじめてその人の真価が分かる」ということですが、今目の前にある冬を自制心を働かせて乗り越え、暖かい春を迎えたいものですね。

 


参考文献


池田新介『自滅する選択』東洋経済新報社.

ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』早川書房.

 


投稿者:安田宏樹

 

 東京経済大学のブログ

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【経済学部】 マシュマロ・テスト


【コミュニケーション学部】 冬とシェイクスピア 

【現代法学部】 平等とは?

【全学共通教育センター】絵画から見えてくる中世の冬

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2016年12月20日火曜日

取引費用とノーベル経済学賞

12月のブログを担当する野田です。よろしくお願いします。

12月のテーマはノーベル賞ということで、ノーベル経済学賞に関連させつつ、経済学の考え方を紹介したいと思います。

結構知られていることですが、ノーベル経済学賞は通称で、正式名は「ノーベル記念経済学賞」といいます。ノーベル経済学賞はノーベル賞のひとつではないと主張する人がいますが、それはあながち間違っていません。とはいっても、ノーベル経済学賞は経済学関係で最高峰の賞であることには変わりなく、この賞を受賞した研究者は学問の発展に寄与してきました。

歴代の受賞者のなかで今日取り上げるのは、1991年に受賞したロナルド・コース(Ronald H. Coase)です。彼は1910年に生まれ、2013年に没しました。ふたつの世界大戦を経験し、103歳という長寿をまっとうした人でした(顔写真はこのブログに直接あげられないので、このHPをみてください)。

コースは経済学だけでなく、政治学や産業組織論、経営学まで、実に幅広く影響を与え続けた偉大な研究者です。とくに彼を有名にしたのが、取引費用(transaction costs)という概念を開発したことによります。

経済学は、われわれは損得勘定でモノゴトを選択すると考えます。このケーキおいしそう、宿題やめようなど、日常生活のなかで、皆さんは損得勘定を瞬時に計算し、何をするのかを決めているのです。経済学の用語では、損を費用、得を効用といいます。そのうえで経済学は、総効用から総費用を引いた「純効用」を最大にするように、わたしたちはモノゴトを選択するとみなします。


この考え方は、現代経済学の骨格をなしている、とても重要なものです。より現実を説明するために、コースはこの伝統的な考え方に取引費用を追加することで、修正を加えたのです。ラーメン好きの人にとってみれば、並んでも食べたいお店があるはずです。この「並んでいる」というのがミソになります。つまり彼女は、ラーメン代という費用とともに、行列に並ぶ労力や時間も費用として負担し、そのうえでラーメンを食べることを選択したのです。後者の費用が、ひとつの取引費用となります。

いわれてみれば当たり前ですが、コースはこの点に気がついたので、ノーベル賞を受賞できたのです。このように日常生活をよくみると、この取引費用として説明できる事象にあふれていることに気がつくでしょう。周りを見渡して、ぜひ、取引費用を発見してみてください。(経済学部准教授 野田浩二)

経営学部:【学問のミカタ】ノーベル賞のプロモーション効果
コミュニケーション学部:【学問のミカタ】ディランのノーベル賞騒動で思ったこと



2016年11月28日月曜日

数字で伝わるもの、数式で伝わるもの




全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、2016年度11月を担当する石川です。今月のテーマは「言葉」です。突然ですが、格闘漫画を読んでいて、以下のようなセリフに出会ったことはありませんか?
 
「次の対戦相手、まとっているオーラが半端ないぜっ!」
 
このセリフにどのような印象を持つでしょうか?次の対戦相手との戦いにセリフのキャラは勝てそうですか?
 
では、次のようなセリフはどうでしょうか?
 
「ばかなっ!次の相手の戦闘力、俺様の30000パワーを上回る50000パワーだとっ…!」
 
 この場合、セリフのキャラは相手に勝てそうですか?
 
 
もちろん、漫画のストーリーによって、どちらの場合でも、セリフをしゃべったキャラが勝つ場合も負ける場合もあります。しかし、一つ目のセリフからは、そのキャラと対戦相手のどちらが強いのか自体推測できないのに対し、二つ目のセリフの場合、少なくとも真正面からたたかった場合、セリフのキャラよりも対戦相手の方が強いことが推測されます。なぜなら数字の比較で大小が明確だからです。これが数字が言葉として持つ力です。
 
 経済学では、現実の経済状態を認識、表現するために数字を用いるため、数字は極めて重要な役割を果たしています。というのも、現実経済は、膨大な人々の膨大な行動によって形成されており、非常に複雑です。そのため、その状況を出来る限り的確にとらえようとした時、曖昧な言葉での表現より、数字での把握が極めて効果的になるのです。
 
例えば、今の日本の景気や就職状況について、語る場面においても、
 
 「日本全体の景気は、よくなってきているけれども、それがなかなか家計にまで行き届かない現状です。」
 
 「リーマンショックの時期に比べ、最近の就職活動の状況はかなり改善してきています。」
 
などといった表現をニュースで聞いたとしても、それを本当に鵜呑みにしていいのかわからないし、また、それがどの程度なのかの把握は難しいです。しかし、
 
 「2011年以降の5年間で、日本の実質GDPは年平均0.66%で成長しており、2015年度において529.4兆円[1]となっている。これは、アメリカ、中国に次いで世界第三位となっている。その中で、企業の経常利益は年平均9.5%改善、設備投資も年平均5.24%上昇してきているが[2]、労働者の所定内給与(残業手当などを除いた給与)は、年平均0.5%しか成長しておらず[3]、家計の最終消費支出も年平均0.38%で2014年度、2015年度に関しては前年比がマイナスとなっている。[4]
 
 「2009年度0.45倍だった有効求人倍率は、2015年度には1.23倍となり[5]、同じく2009年に5.1%だった完全失業率(就職を希望する者の失業率)は、2015年には3.4%まで改善している。[6]
 
 と数字が挙げられると、その根拠やどの程度の大きさなのかも明確にイメージできます。もちろん、これらの数字が説得力を持つのは、しっかりとした調査に基づく数字であることが大きいですが、と同時に、しっかりとした調査が言葉でなく、数字でまとめられているからこそ、他の時期との変化率を求めたり、他国との比較が出来、より的確な実態の把握が可能となっているのです。グラフで表現できるのも数字の強みです。
 
 
 また、経済学において、人の経済的な意思決定、行動をモデル化し、その行動をシミュレートしようとする際には、今度は数字ではなく、数式が用いられます。端的な例をあげると、買い物や消費に関する意思決定に関し、
 「人は自身の所得の範囲内で、自分が最も満足できるように買い物や消費を選択するだろう」
という意思決定方式を想定した場合、上のように言葉で表現するのではなく、「買い物の選択に応じた満足度を表す関数(効用関数)」というものを数式表現した上で、この意思決定を、「この効用関数に関する、所得を制約式としたうえでの最大化問題」と表現します。
 
 数式が苦手な人にとっては、頭の痛くなる話かもしれませんが(苦笑)、こうすることで曖昧性を排除した理路整然とした考察が可能となります。
 
 こうした数字や数式を用いた表現は、経済学以外にも、他の科学、そして実社会のビジネスや政治などあらゆるところで多用されています。まさに現代においては「数字こそが世界共通の言葉」と言えるかもしれません。すなわち、数字や数式は決して、試験問題を解くためだけの存在なのではなく、自身や社会の状況を表現するのに、とても便利な表現方法なのです。
 
 もちろん世の中には数字での表現が難しい大切なことも山ほどあります。その意味でも、現代は、数字に振り回されるのではなく、数字を無視するのでもなく、数字を的確にとらえられる力が求められているのではないでしょうか。
 
 
 
投稿者 石川雅也




[1] 内閣府の国民経済計算統計より算出。


[2] 財務省の法人企業統計調査より算出。


[3] 厚生労働省の賃金構造基本統計調査より算出。


[4] 内閣府の国民経済計算統計より算出。


[5] 厚生労働省の職業安定業務統計より算出。


[6] 総務省の労働力調査統計より算出。