2016年11月28日月曜日

数字で伝わるもの、数式で伝わるもの




全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、2016年度11月を担当する石川です。今月のテーマは「言葉」です。突然ですが、格闘漫画を読んでいて、以下のようなセリフに出会ったことはありませんか?
 
「次の対戦相手、まとっているオーラが半端ないぜっ!」
 
このセリフにどのような印象を持つでしょうか?次の対戦相手との戦いにセリフのキャラは勝てそうですか?
 
では、次のようなセリフはどうでしょうか?
 
「ばかなっ!次の相手の戦闘力、俺様の30000パワーを上回る50000パワーだとっ…!」
 
 この場合、セリフのキャラは相手に勝てそうですか?
 
 
もちろん、漫画のストーリーによって、どちらの場合でも、セリフをしゃべったキャラが勝つ場合も負ける場合もあります。しかし、一つ目のセリフからは、そのキャラと対戦相手のどちらが強いのか自体推測できないのに対し、二つ目のセリフの場合、少なくとも真正面からたたかった場合、セリフのキャラよりも対戦相手の方が強いことが推測されます。なぜなら数字の比較で大小が明確だからです。これが数字が言葉として持つ力です。
 
 経済学では、現実の経済状態を認識、表現するために数字を用いるため、数字は極めて重要な役割を果たしています。というのも、現実経済は、膨大な人々の膨大な行動によって形成されており、非常に複雑です。そのため、その状況を出来る限り的確にとらえようとした時、曖昧な言葉での表現より、数字での把握が極めて効果的になるのです。
 
例えば、今の日本の景気や就職状況について、語る場面においても、
 
 「日本全体の景気は、よくなってきているけれども、それがなかなか家計にまで行き届かない現状です。」
 
 「リーマンショックの時期に比べ、最近の就職活動の状況はかなり改善してきています。」
 
などといった表現をニュースで聞いたとしても、それを本当に鵜呑みにしていいのかわからないし、また、それがどの程度なのかの把握は難しいです。しかし、
 
 「2011年以降の5年間で、日本の実質GDPは年平均0.66%で成長しており、2015年度において529.4兆円[1]となっている。これは、アメリカ、中国に次いで世界第三位となっている。その中で、企業の経常利益は年平均9.5%改善、設備投資も年平均5.24%上昇してきているが[2]、労働者の所定内給与(残業手当などを除いた給与)は、年平均0.5%しか成長しておらず[3]、家計の最終消費支出も年平均0.38%で2014年度、2015年度に関しては前年比がマイナスとなっている。[4]
 
 「2009年度0.45倍だった有効求人倍率は、2015年度には1.23倍となり[5]、同じく2009年に5.1%だった完全失業率(就職を希望する者の失業率)は、2015年には3.4%まで改善している。[6]
 
 と数字が挙げられると、その根拠やどの程度の大きさなのかも明確にイメージできます。もちろん、これらの数字が説得力を持つのは、しっかりとした調査に基づく数字であることが大きいですが、と同時に、しっかりとした調査が言葉でなく、数字でまとめられているからこそ、他の時期との変化率を求めたり、他国との比較が出来、より的確な実態の把握が可能となっているのです。グラフで表現できるのも数字の強みです。
 
 
 また、経済学において、人の経済的な意思決定、行動をモデル化し、その行動をシミュレートしようとする際には、今度は数字ではなく、数式が用いられます。端的な例をあげると、買い物や消費に関する意思決定に関し、
 「人は自身の所得の範囲内で、自分が最も満足できるように買い物や消費を選択するだろう」
という意思決定方式を想定した場合、上のように言葉で表現するのではなく、「買い物の選択に応じた満足度を表す関数(効用関数)」というものを数式表現した上で、この意思決定を、「この効用関数に関する、所得を制約式としたうえでの最大化問題」と表現します。
 
 数式が苦手な人にとっては、頭の痛くなる話かもしれませんが(苦笑)、こうすることで曖昧性を排除した理路整然とした考察が可能となります。
 
 こうした数字や数式を用いた表現は、経済学以外にも、他の科学、そして実社会のビジネスや政治などあらゆるところで多用されています。まさに現代においては「数字こそが世界共通の言葉」と言えるかもしれません。すなわち、数字や数式は決して、試験問題を解くためだけの存在なのではなく、自身や社会の状況を表現するのに、とても便利な表現方法なのです。
 
 もちろん世の中には数字での表現が難しい大切なことも山ほどあります。その意味でも、現代は、数字に振り回されるのではなく、数字を無視するのでもなく、数字を的確にとらえられる力が求められているのではないでしょうか。
 
 
 
投稿者 石川雅也




[1] 内閣府の国民経済計算統計より算出。


[2] 財務省の法人企業統計調査より算出。


[3] 厚生労働省の賃金構造基本統計調査より算出。


[4] 内閣府の国民経済計算統計より算出。


[5] 厚生労働省の職業安定業務統計より算出。


[6] 総務省の労働力調査統計より算出。