経済学部の安田宏樹と申します。今年度も経済学部ブログに携わらせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
全学部・センターコラボ企画、「学問のミカタ」、今回は日本人の長時間労働の背景について考えてみたいと思います。
現在、国会ではいわゆる「働き方改革関連法案」が協議されていますよね。「働き方改革関連法案」の中でも長時間労働の是正は大きなテーマになっていると思います。
そこで、今回は労働時間に関する研究をご紹介したいと思います。
まず、基本的な統計である日本人の労働時間を確認しましょう。主要先進諸国の一人当たり平均年間総実労働時間を見ると(表1)、日本の労働時間は2015年で1719時間となっており、1995年の1884時間から20年間で165時間ほど労働時間が短くなっていることが分かります。
表1:一人当たり平均年間総実労働時間
日本
|
アメリカ
|
カナダ
|
イギリス
|
ドイツ
|
フランス
|
イタリア
|
オランダ
| ||
1995
|
1,884
|
1,844
|
1,775
|
1,731
|
1,528
|
1,605
|
1,856
|
1,479
| |
2000
|
1,821
|
1,836
|
1,779
|
1,700
|
1,452
|
1,535
|
1,851
|
1,462
| |
2001
|
1,809
|
1,814
|
1,771
|
1,705
|
1,442
|
1,526
|
1,838
|
1,452
| |
2002
|
1,798
|
1,810
|
1,754
|
1,684
|
1,431
|
1,487
|
1,827
|
1,435
| |
2003
|
1,799
|
1,800
|
1,740
|
1,674
|
1,425
|
1,484
|
1,816
|
1,427
| |
2004
|
1,787
|
1,802
|
1,760
|
1,674
|
1,422
|
1,513
|
1,815
|
1,448
| |
2005
|
1,775
|
1,799
|
1,747
|
1,673
|
1,411
|
1,507
|
1,812
|
1,434
| |
2006
|
1,784
|
1,800
|
1,745
|
1,669
|
1,425
|
1,484
|
1,813
|
1,430
| |
2007
|
1,785
|
1,798
|
1,741
|
1,677
|
1,424
|
1,500
|
1,818
|
1,430
| |
2008
|
1,771
|
1,792
|
1,735
|
1,659
|
1,418
|
1,507
|
1,807
|
1,430
| |
2009
|
1,714
|
1,767
|
1,701
|
1,651
|
1,373
|
1,489
|
1,776
|
1,422
| |
2010
|
1,733
|
1,778
|
1,703
|
1,650
|
1,390
|
1,494
|
1,777
|
1,421
| |
2011
|
1,728
|
1,786
|
1,700
|
1,634
|
1,393
|
1,496
|
1,773
|
1,422
| |
2012
|
1,745
|
1,789
|
1,713
|
1,654
|
1,375
|
1,490
|
1,734
|
1,413
| |
2013
|
1,734
|
1,787
|
1,707
|
1,666
|
1,362
|
1,474
|
1,720
|
1,415
| |
2014
|
1,729
|
1,789
|
1,703
|
1,677
|
1,366
|
1,473
|
1,719
|
1,420
| |
2015
|
1,719
|
1,790
|
1,706
|
1,674
|
1,371
|
1,482
|
1,725
|
1,419
|
(出所)労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2017』
また、日本の労働時間は他の先進諸国と比較して非常に長いとはいえない状況であることが分かります(ドイツ、フランス、オランダは短いですね)。しかし、これは全就業者の平均的な数値ですので、日本のようにパートタイマーやアルバイトなどの短時間勤務の方が多いとフルタイム就業者の長時間労働問題が隠れてしまうことが知られています。
そこで、次に週50時間以上働く雇用者(長時間労働者)の割合を見てみましょう(図1)。日本では就業者の21.9%が週に50時間以上働いており、OECD平均を大きく超えていることが見て取れ、確かに長時間労働という問題は存在していることが分かります。
図1:長時間労働者の割合(国際比較)
日本の労働時間の国際的な特徴として、「平均すると突出して長時間労働とはいえないかもしれないが、週に50時間を超えて働く人が多い」といえそうです。
では、日本人は働くことが好きなのでしょうか。ここからは慶應義塾大学の山本勲教授と早稲田大学の黒田祥子教授の興味深い研究をご紹介したいと思います。お二人の先生は2009年10月から2010年1月にかけて『日系グローバル企業転勤者調査』という独自のアンケート調査(とインタビュー調査)を実施しました。
問題意識は明快で、欧州(イギリス・ドイツ)に転勤した日本人の労働時間を調査し、転勤前後の労働時間の変化を観察することで日本人は働くことが好きなのかどうかを実証しています。簡単にいえば、働くこと自体が好きなのであれば日本よりも周囲の労働時間が短い欧州に赴任しても労働時間は日本で働いているときとあまり変わらないでしょうし、日本特有の風土が労働時間に影響しているのであれば、欧州への赴任によって労働時間は短くなると考えられます。
分析結果を見ると、欧州赴任後の日本人労働者の労働時間は平均で5.2%減少していることが分かりました。特に、「現地採用の非日本人の同僚やクライアントと仕事で関わる割合」が8割を超える日本人は、日本で働いていた時と比べ17.4%も労働時間が減っていることが観察されました。
ここから、日本人は単純に働くことが好きであるというよりも日本国内の仕事を取り巻く環境や風土が労働時間に大きな影響を与えていた可能性がうかがえます。欧州流の休暇の取り方や仕事の取り組み方を取り入れることで日本の労働時間も変わるかもしれませんね。
それでは、最後に、インタビュー調査から得られた日本の長時間労働の原因と感じている要因についてご紹介したいと思います。
・重要案件を通すための関係者への根回しが多く必要とされる
・会議に不必要に多くの人が参加する
・管理職に十分な権限が委譲されていない
・会議の検討資料が詳細でレイアウトも凝った美しい資料が準備される
・遅くまで仕事をしている部下を賛美する
・上司が残っていて帰りにくい雰囲気がある
日本人の長時間労働を是正するための多くのヒントが隠されていますので、もし興味がおありの方は参考文献をお読みいただければと思います。
参考文献
山本勲・黒田祥子(2014)『労働時間の経済分析―超高齢社会の働き方を展望する』日本経済新聞出版社.