全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、6月のテーマは「梅雨」です。関東地方は今年は6月8日に梅雨に入りました。小学生の頃、雨だと陸上部の練習が休みになるという理由で大好きだった梅雨ですが、社会人になった今は通勤や洗濯物、苦手な湿気のことを思うとげんなりしてしまう時期です。晴れていれば気分がよく、雨が降ると少しだけ憂鬱になる。非常に単純ですが、多くの人に当てはまることではないでしょうか。
ところで、この天気による気分の変化は、株価にまで影響を与えるのではないか、という可能性が様々な研究や分析から指摘されています。中でも、多くの国の長期間の実際のデータを用いた検証によってその可能性を指摘した有名な論文として、Hirshleifer & Shunmway (2003)があげられます。彼らは、1982~1997年の期間において、世界の26か国の各国の主要株式取引所がある都市における朝の晴天と、その日のその取引所の平均株価の日次収益率との間に強い正の相関関係があることを示しました。端的には「晴れている日は株価が上がりやすい」ということになります。冷夏、暖冬などの長期的な天候によって農業関係の株価が影響を受ける、というのであれば、経済学的にも理解しやすいことですが、単純なその日の天気とその日の平均的な株価変動との間に関係があるということは、なかなか合理的には説明がつかない現象であり、かなりの驚きです。
ただし、この論文だけでなく、天気と株価との関係は、その後も様々な研究がなされており、その原因が本当に天気による気分の違いなのか、実際の投資戦略として用いた場合の手数料などを考慮しても有効なほどの関係性なのか、またその関係が株式市場の参加者に認識されたのちにも残る現象なのか、など今でも多くの議論がなされています。
でも、考えてみると、気分や感情によって、人の経済的な行動に変化が生じることは、ある意味ではごく自然なことだともいえるように思います。親からもらった一万円とアルバイトで稼いだ一万円だと、同じ一万円でも重みが違うように感じられ、その使い方もおのずと変わった、というような話は学生から良く聞こえてきます。また、衝動買いをしてしまって、あとから後悔、なんてことは誰もが何度も経験することです。お金を貯めようと何度も決意するのに毎回挫折してしまう、という人もいるかもしれません。
では、気分や感情、さらには好みや価値観まで、日々さまざまなことをきっかけに変化し続けるのであれば、その中でどのような経済的な意思決定をすることが賢いといえるのでしょうか。ひたすら理性的に行動しようとすることでしょうか。「Let it Go~♪」と、心のままに感情に逆らわず行動することでしょうか。または、ルールや制度を作って外生的にある程度行動をコントロールしてもらうことでしょうか。はたまた、頭や体だけでなく、心を鍛えることでしょうか。
これはなかなかに難しい問題です。皆さんならどう考えますか。雨の日には、こんな思索にふけるのも面白いかもしれません。
投稿者 石川雅也
参考文献:
D. Hirshleifer and Shumway T., “Good Day
Sunshine: Stock Returns and the Weather”, The Journal of Finance, Vol. 58-3,
pp. 1009-1032, 2003.