12月のテーマはノーベル賞ということで、ノーベル経済学賞に関連させつつ、経済学の考え方を紹介したいと思います。
結構知られていることですが、ノーベル経済学賞は通称で、正式名は「ノーベル記念経済学賞」といいます。ノーベル経済学賞はノーベル賞のひとつではないと主張する人がいますが、それはあながち間違っていません。とはいっても、ノーベル経済学賞は経済学関係で最高峰の賞であることには変わりなく、この賞を受賞した研究者は学問の発展に寄与してきました。
歴代の受賞者のなかで今日取り上げるのは、1991年に受賞したロナルド・コース(Ronald H. Coase)です。彼は1910年に生まれ、2013年に没しました。ふたつの世界大戦を経験し、103歳という長寿をまっとうした人でした(顔写真はこのブログに直接あげられないので、このHPをみてください)。
コースは経済学だけでなく、政治学や産業組織論、経営学まで、実に幅広く影響を与え続けた偉大な研究者です。とくに彼を有名にしたのが、取引費用(transaction costs)という概念を開発したことによります。
経済学は、われわれは損得勘定でモノゴトを選択すると考えます。このケーキおいしそう、宿題やめようなど、日常生活のなかで、皆さんは損得勘定を瞬時に計算し、何をするのかを決めているのです。経済学の用語では、損を費用、得を効用といいます。そのうえで経済学は、総効用から総費用を引いた「純効用」を最大にするように、わたしたちはモノゴトを選択するとみなします。
この考え方は、現代経済学の骨格をなしている、とても重要なものです。より現実を説明するために、コースはこの伝統的な考え方に取引費用を追加することで、修正を加えたのです。ラーメン好きの人にとってみれば、並んでも食べたいお店があるはずです。この「並んでいる」というのがミソになります。つまり彼女は、ラーメン代という費用とともに、行列に並ぶ労力や時間も費用として負担し、そのうえでラーメンを食べることを選択したのです。後者の費用が、ひとつの取引費用となります。
いわれてみれば当たり前ですが、コースはこの点に気がついたので、ノーベル賞を受賞できたのです。このように日常生活をよくみると、この取引費用として説明できる事象にあふれていることに気がつくでしょう。周りを見渡して、ぜひ、取引費用を発見してみてください。(経済学部准教授 野田浩二)
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