経済学部の安田です。全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、2017年1月のテーマは「冬」です。冬というと日本では受験を連想される方も多いのではないでしょうか。1月14日・15日にセンター試験が終了し、受験生の皆さんにとってはこれからが受験シーズン本番ですね。
さて、皆さんはマシュマロ・テストという言葉を聞いたことがあるでしょうか。マシュマロというのはあのお菓子のマシュマロです。マシュマロ・テストは、1960年代にスタンフォード大学の保育園で始められたテストで、園児がマシュマロを食べるのを我慢できるかというテストです。テストの概要は以下の通りです。
まず、被験者となる園児は小さな部屋に通されます。そこで実験を担当する研究者から、マシュマロ1つを今すぐに食べてもいいし、研究者が戻るまで待てれば(最大20分)マシュマロをもう一つ(合計2つ)を手に入れられる、という選択を提示されます。マシュマロ・テストの様子は非常に愛くるしいもので、インターネット上にもいくつか動画が公開されています(例えば、こちらの動画があります)。
多くの園児たちは研究者が戻るまで我慢できずにマシュマロを食べてしまうのですが、スタンフォード大学の研究者たちは、このマシュマロ・テストを受けた園児たちを追跡調査し、マシュマロ・テストの結果がその後の人生と非常に密接に結びついていることを発見しました。例えば、マシュマロ・テストで長く待てた園児ほど、成長してからの大学進学適性試験(SAT)の点数が高く、高い教育水準に達し、肥満指数も低いなどの結果が明らかになっています(詳しくは参考文献の『マシュマロ・テスト』をご覧下さい)。
では、マシュマロ・テストの結果は何を示していたのでしょうか。いろいろな解釈が可能だと思いますが、スタンフォード大学の研究者はこれを「自制心」の違いであると解釈しています。
人生ではマシュマロ・テストのように、「今」と「将来」のどちらを重視して選択をするかという葛藤がつきものですよね。「今消費するのか、将来のために貯蓄するのか」、「今お腹いっぱい食べるのか、将来の肥満リスクを考えて制限するのか」、「今勉強をせずに遊ぶのか、将来の重要な試験のために勉強するのか」など、枚挙に暇がありません。マシュマロ・テストが示していることは、そのような葛藤に直面したときに、目の前にある欲望(マシュマロ1つ)を自制できる人が、より大きな将来の果実(マシュマロ2つ)を得ているということなのだと思います。
「今」を重視する「せっかちな」人ほど、負債者比率、肥満比率、ギャンブル習慣者比率などが高いことは日本のデータでも確認されていますが(詳しくは参考文献の『自滅する選択』をご覧下さい)、自制心を高めたり、誘惑の乗り越る方法についても『マシュマロ・テスト』に紹介されていますので、関心のある方は読んでみて下さい。
論語に「歳(とし)寒くして、然(しか)る後に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るるを知るなり」(一年で最も寒い冬になって初めて、松や檜などの常緑樹がまだ葉を残していることがわかる)という言葉があります。
「困難に直面した時にはじめてその人の真価が分かる」ということですが、今目の前にある冬を自制心を働かせて乗り越え、暖かい春を迎えたいものですね。
参考文献
池田新介『自滅する選択』東洋経済新報社.
ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』早川書房.
投稿者:安田宏樹
東京経済大学のブログ
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