2015年7月23日木曜日

海外からの訪日観光客の増加で景気は変わる?


 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、7月のテーマは「海」です。浜松出身の私にとって海水浴と言えば浜名湖でした。浜名湖以外にも、近くには中田島砂丘で有名な遠州灘があるのですが、こちらは太平洋と直接つながっているため、波が高く、遊泳は禁止でした。それでも中学時代、部活で浜に走りに来た時などは、高い波を見つめながら遠い海の先に思いをはせたりもしました。大人になった今では海外に出る機会もそれなりに増えてきました。

 

 私の海についての思い出はさておき、近年、海外から日本にやってくる観光客が増えていることが大きな話題となっています。


上のグラフに示されるように、訪日外国人旅行者は、2011年に東日本大震災・原発事故の影響で激減したものの、その後すぐに回復し、2013年には初の1000万人を超え、2014年には1341万人にまで増加しました。また2015年に関しても、上半期だけで914万人を記録し、これは2014年に比べても46%の増加ということで、今年もさらに増える見込みです。皆さんの中にも、街中で外国人の旅行者を見かける機会が増えたと感じる人がいるのではないでしょうか。

 この訪日外国人旅行者の増大の要因としては、一つとして円安の影響が挙げられます。


 

上のグラフを見てもわかるように、訪日外国人旅行者が急激に増え始めた2012年から現在にかけて、円安傾向が続いています。ちなみに円安によって、外国人の日本旅行が実質割安になったということは、裏返すと、日本人の海外旅行は実質割高になったということでもあります。実際、日本人の海外旅行者は2012年の1850万人から2014年には1690万人に減少しています。この間、景気自体は上向きであったことを考えると、海外旅行に対して為替相場が与える影響の大きさが分かります。

 

 もちろん、訪日外国人旅行者の増加の要因は、円安だけではありません。日本政府観光局(JNTO)は、①短期滞在査証(ビザ)発給要件の大幅緩和、②消費税免税制度の拡充、③アジア地域の経済成長に伴う海外旅行需要の拡大、などもその要因に挙げています。

 

これらの背景には、観光産業が日本の成長戦略の柱の一つとして注目されていることがあります。安倍政権は、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」(20136月)で「2030年には訪日外国人旅行者数3000万人を超えることを目指す」という成果指標を掲げ、オリンピックの開催が決定されたのちの「日本再興戦略 改定2014」(20146月)では、2020年に2000万人という目標も新たに加えています。

 

 しかし、このように盛り上がりを見せている観光産業ですが、その経済規模や影響の大きさは、本当に日本経済全体の成長の原動力となるほどのものなのでしょうか。それを考えるためには、人数ベースではなく、金額ベースでの数値を把握する必要があります。この点については、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)が公表している『数字でわかる旅行業』のデータが非常に参考になります。それによると2012年における日本国内における旅行消費額は22.5兆円であり、付加価値ベースで考えると10.9兆円ということです。ちなみに、この年の名目GDP473.8兆円なので、この年の旅行産業の生み出した付加価値はGDP2.3%ということになります。これは決して小さくない規模です。

 

 さらに言うと、一つの産業が盛り上がるとその産業内で雇用者が増え、その雇用者の所得が増大します。すると、その増えた所得が新たな需要を生み、他の産業へも盛り上がりが伝播していきます。こうした動きを「経済波及効果」といいます。JATAは、この経済波及効果まで含めると、2012年における観光産業の付加価値効果は23.8兆円と推計しています。この額はGDP5%を占めるものであり、観光産業の盛り上がりは、日本経済に大きな影響を与えうることを示しています。

 

 ただし、注意してほしいのは、2012年における旅行消費額22.5兆円のうち、実に21.2兆円が日本人による支出であり、外国人旅行者による消費は1.3兆円、比率にして約6%にとどまるということです。したがって、「海外からの観光」だけを金額ベースで捉えると、まだまだ経済成長の原動力となっているといえるほど大きいものではないかもしれません。

 

 とはいえ、2012年には1.3兆円であった外国人旅行者による消費額も、2014年には2兆円の達しており、人数と同様、他の産業では見られないほどの急速なペースで増加しています。オリンピック以外にも、各種の政策、世界遺産登録などが追い風となっていけば、中長期的には、「海外からの観光」が日本を代表する産業に成長する可能性は十分にあるのではないでしょうか。

 

 このように、経済ニュースは「数字で把握すること」も極めて大事となります。

 

 

投稿者 石川雅也

 

 

資料参考元:

政府観光局公表

Principal Global Indicators

一般社団法人日本旅行業協会(JATA

2015年6月29日月曜日

天候と気分次第で人の経済的行動は変わる?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、6月のテーマは「梅雨」です。関東地方は今年は68日に梅雨に入りました。小学生の頃、雨だと陸上部の練習が休みになるという理由で大好きだった梅雨ですが、社会人になった今は通勤や洗濯物、苦手な湿気のことを思うとげんなりしてしまう時期です。晴れていれば気分がよく、雨が降ると少しだけ憂鬱になる。非常に単純ですが、多くの人に当てはまることではないでしょうか。

 ところで、この天気による気分の変化は、株価にまで影響を与えるのではないか、という可能性が様々な研究や分析から指摘されています。中でも、多くの国の長期間の実際のデータを用いた検証によってその可能性を指摘した有名な論文として、Hirshleifer & Shunmway (2003)があげられます。彼らは、19821997年の期間において、世界の26か国の各国の主要株式取引所がある都市における朝の晴天と、その日のその取引所の平均株価の日次収益率との間に強い正の相関関係があることを示しました。端的には「晴れている日は株価が上がりやすい」ということになります。冷夏、暖冬などの長期的な天候によって農業関係の株価が影響を受ける、というのであれば、経済学的にも理解しやすいことですが、単純なその日の天気とその日の平均的な株価変動との間に関係があるということは、なかなか合理的には説明がつかない現象であり、かなりの驚きです。

ただし、この論文だけでなく、天気と株価との関係は、その後も様々な研究がなされており、その原因が本当に天気による気分の違いなのか、実際の投資戦略として用いた場合の手数料などを考慮しても有効なほどの関係性なのか、またその関係が株式市場の参加者に認識されたのちにも残る現象なのか、など今でも多くの議論がなされています。

 でも、考えてみると、気分や感情によって、人の経済的な行動に変化が生じることは、ある意味ではごく自然なことだともいえるように思います。親からもらった一万円とアルバイトで稼いだ一万円だと、同じ一万円でも重みが違うように感じられ、その使い方もおのずと変わった、というような話は学生から良く聞こえてきます。また、衝動買いをしてしまって、あとから後悔、なんてことは誰もが何度も経験することです。お金を貯めようと何度も決意するのに毎回挫折してしまう、という人もいるかもしれません。

 では、気分や感情、さらには好みや価値観まで、日々さまざまなことをきっかけに変化し続けるのであれば、その中でどのような経済的な意思決定をすることが賢いといえるのでしょうか。ひたすら理性的に行動しようとすることでしょうか。「Let it Go~♪」と、心のままに感情に逆らわず行動することでしょうか。または、ルールや制度を作って外生的にある程度行動をコントロールしてもらうことでしょうか。はたまた、頭や体だけでなく、心を鍛えることでしょうか。

 これはなかなかに難しい問題です。皆さんならどう考えますか。雨の日には、こんな思索にふけるのも面白いかもしれません。

投稿者 石川雅也


参考文献:
D. Hirshleifer and Shumway T., “Good Day Sunshine: Stock Returns and the Weather”, The Journal of Finance, Vol. 58-3, pp. 1009-1032, 2003.

2015年5月27日水曜日

出来高報酬契約はパフォーマンスを向上させる?



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、5月のテーマは「スポーツ」です。子供の頃、野球をやっていた私は、ほかの多くの子どもたちと同じように、プロ野球選手にあこがれた子どもの一人でした。最近は地上波ではめったにプロ野球中継は放送されなくなりましたが、今でも好きなチームの結果はかかさずチェックしています。
 また、中学生くらいになってくると、プロ野球選手へのあこがれは、純粋に野球のうまさ、かっこよさに対してだけでなく、その年俸の高さに対しても向くようになっていきました(笑)。当時、ロッテ、中日、巨人で活躍した落合博満選手の年俸が、日本人選手として初めて億を超え、毎年すごい勢いで増えていったことにとても興奮したことを鮮明に覚えています。

 ところで、プロ野球選手の契約更改は、上にあげた年俸の高さ、球団間格差、有名選手への複数年契約の提示など、毎年様々に話題となりますが、その中に出来高報酬というものがあります。これは、シーズン前に決めた年俸に、その年の個人成績(出場試合数、打率、打点、個人タイトル等)に応じて、報酬を上乗せする契約のことです。これは定額の報酬契約以上に、選手のやる気と努力を引き出す、すなわち、インセンティブを高めることを狙いとするもので、経済学では、“インセンティブ契約”と呼ばれます。

 このインセンティブ契約、出来高報酬契約は、プロ野球界のみでなく、一般の企業でもよく見られます。営業職の歩合制がその代表例ですが、営業職に限らず、ボーナスが会社の業績に応じて変わることも一種の出来高報酬といえます。経営者による自社株保有も、経営者の意識を株価増大に向けさせるためのインセンティブ契約と捉えられます。

 ただし、一概にインセンティブ契約といっても、それが契約者のやる気や行動を適正に改善するかは、状況によります。大事なのは“報酬を連動させる成果が、契約者から引き出したい努力と密接に関連していること”です。

例えば、大きな貿易会社の事務職員に、会社のためにまじめに働いてもらおうと、「会社の当期純利益と連動する賃金契約」を提示したとします。この時、事務職員は自分自身のためにも、会社の利益の増大を望むようにはなります。しかし、貿易会社の当期純利益は、事務職員個人の努力以上に、(個人のコントロール範疇を超える)為替相場の変動の影響を大きく受けてしまうと考えられます。そのため、為替相場の変動によって、当期純利益が変動し、自身の賃金が変動したとき、きっとその職員は、自己責任と納得せずに、理不尽なリスクにさらされていると感じてしまうでしょう。結果、このようなインセンティブ契約では職員の適切な努力を引き起こすことはできなくなってしまいます。

一般的に、歩合制などのインセンティブ契約は、実力主義的な発想をもつ人に好まれます。そして、実力主義的な発想を持つ人の中には、「自身の実力に自信がある人」、すなわち、「自分は努力をすれば、結果を多く出すことが出来る、と思っている人」が多くいると思われます。したがって、インセンティブ契約の提示には、契約者の努力を引き出すことに加えて、「実力に自信のある人」を識別する効果も期待できます。ただし、「実力に自信がある人」が必ずしも「実際に実力がある人」とは限らないという点には注意が必要かもしれません☆

個人的には、インセンティブ契約が、自信過剰な人から、成果をともなわないまとはずれな努力を引き出してしまう場合、それは昨今話題の「やりがい搾取」ならぬ「自信搾取」とでもいうべき非効率な状況なのでは、と考えています。

こう考えると、実力も自信もなくてはやっていけないプロ野球の世界で、出来高報酬が多く利用されると同時に、その賛否が分かれるのも、うなずけるところです。はたして、出来高報酬の利用に積極的な球団は、選手たちの努力を引出し、チームの勝利という結果をもぎ取ることに成功しているのか、また、出来高報酬を好む選手とそうでない選手、個性やプレースタイル、パフォーマンスにどのような違いがあるのか、こんなことを考えながら観戦すると、また違ったプロ野球の楽しみを味わえるかもしれません。


投稿者 石川雅也